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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)209号 判決 1957年2月07日

神奈川県三浦郡三崎町日ノ出一一番地

上告人

川崎喜太郎

右訴訟代理人弁護士

上野正秀

県横須賀市不入斗四〇五番地

被上告人

安藤勲

東京都千代田区麹町三丁目五番地

被上告人

望月伝次郎

被上告人

右代表者法務大臣

中村梅吉

右当事者間の損害賠償請求事件について、東京高等裁判所が昭和二十六年三月二十日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨主張の要点は、別件課税処分取消、増加所得税債務不存在確認訴訟において(一)被告たる国の指定代理人たる被上告人望月が課税原因たる所謂横流しの事実をまず具体的に主張するを要するのに拘らず、そのことなくして証拠調(証人訊問)の申出をし、裁判所はその証人訊問をなしたこと、(二)右証人たる被上告人安藤のなした証言は、(イ)係争事実に関係なく、(ロ)抽象的で具体性なく、(ハ)伝聞先を明かにしない伝聞証言であることにおいて、証拠価値なきに拘らず、これを証拠として顕出せしめたことは適法な攻撃防禦の方法とは認められない。然るに原判決は、これを適法であると判示しているのであつて、右原審の判断は訴訟法の解釈を誤り且つ判例に違反するものであるというにある。

しかし右(一)について、原審の判示したところによれば、横流しの主張は上告人がこれに対し答弁し得ない程に抽象的なものではなく、これに関し証拠調に入るに先だち裁判所が釈明権を行使するか否かは結局受訴裁判所の訴訟指揮権の範囲に属し、自由心証の問題に帰着するのであつて、被上告人望月が横流しの主張をなしこれを立証するため証拠調の申出をすることは、前記別件訴訟における防禦方法として不適法なものということはできないというのであつて、右判断は正当であり所論は採ることを得ない。なお、右に関連する上告理由第五ノ三の所論は、原審の判示に副わない事項を前提として原判決を非難するに帰し、上告理由として不適法である(原審は、被上告人望月のなした課税原因の主張についてのみ論旨指摘の判示をしたのであつて、所得の発生原因のすべてについて何らの主張なくして証拠調の申出をしても適法であるとしたものでないことは判文上明らかである。)。

また右(二)(イ)については、前記別件訴訟における審判の範囲は横流しの事実のみに限定せらるべきでなく、これと関連性ある事実は、その関連性の限度においては審判の範囲に属するものと解すべきところ、論旨指摘の証言は直接間接に横流しの事実を推測させる事実に関するものとみられるのであつて、その間に関連性を認めうべく、これと結論を同じくする原判決には所論のような違法は認められない(右に関する所論引用の判例にいうところの係争事実とは関連性ある間接事実をも含むと解すべきであつて、従つて原判決は、右判例にも違反するものではない。)。(二)(ロ)については、上告人は原審において抽象的事実は証拠とすること能わずとの学説判例を陳述したに止まり、所論証言がかかる証言に該当する旨の主張を明らかにした形跡なく、従つて所論は原審において主張判断のない事実に基ずき原判決を非難するに帰し上告理由として不適法である。(二)(ハ)については、伝聞先を明らかにしない伝聞証言であるからといつて、その一事をもつて証拠能力がないとすることはできず、原審の認定した事実によれば、本件証言においては単に徴税の便宜上伝聞先を明にしないのにすぎず、かような証言の証拠力の有無は、事実審裁判所の自由心証に委ねられていると解すべきであり、従つて、かような証言も適法な防禦方法たるを失わないとした原判決には所論のような違法なく、右に関する論旨引用の判例は、空漠たる風聞が証拠力を有しないと判示したものであるから、本件には適切でない。

以上説明をした以外の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二十五年五月四日法律一三八号)一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

(参考)

○昭和二十六年(オ)第二〇九号

上告人 川崎喜太郎

被上告人 安藤勲

上告人代理人上野正秀ノ上告理由 外二名

第一、別件訴訟ノ内容

一、上告人、原告ハ横須賀税務署長ヨリ、昭和二十二年七月十七日附通知書ニヨリ第一種増加所得金九十九万円(百万円中基礎控除一万円)ノ課税処分ノ通知ヲ受ケタリ。

然レドモ、原告ハ何等ノ事業ヲモ営ミ居ラザルニヨリ、事業所得ニノミ課セラルルナル右増加所得税ノ賦課処分ハ全部架空、虚無ノモノナルヲ以テ、原告ハ右署長ニ対シテハ、右処分ノ取消ヲ求ムル訴、同署長並国ニ対シテハ右処分ニ因ル所得税金七十万五千円ノ債務不存在確定(確認)ノ訴訟ヲ横浜地方裁判所ニ提起シ、同庁昭和二十三年(行)第五一号課税処分取消事件トシテ審理中ナリ。

二、右事件ニ於テ、該事件ノ被告代表者本件被上告人、被告望月ハ主張シテ曰ハク、右課税原因タル原告ノ事業所得アリ、其ハ

(1) 原告ハ昭和二十年十月当時、三崎向ケ崎漁業会長ニシテ、

(2) 農林省水産局長ニ対シ、漁業用資材タル綿糸ト亜麻トノ配給申請ヲ為シ、

(3) 綿糸千五百貫、亜麻四千二百五十貫ノ配給通知ヲ受ケ、

(4) 現実ニ配給アリシ綿糸千五百貫亜麻二千二百八十九貫余ノ中、

(5) 原告ハ綿糸五百貫ヲ同漁業会員ニ配給セシモ、

(6) 其余ハ全部原告個人カ之ヲ他ニ所謂「横流シ」シ、

(7) 以テ得タル利益金百万円ナリト。

三、本件ノ被告ノ右主張事実中。

(1) 原告ハ昭和二十一年三月末日迄同漁業会長ナリシコト。

(2) 該資材配給申請ヲ為シタルコト。

(3) 綿糸千五百貫、亜麻二千二百八十九貫余ノ現実配給アリシコト、該各配給時期ハ前者ハ二十一年十二月、後者ハ翌二十二年三月共ニ原告ノ会長辞任後ニシテ之ヲ受ケタル該漁業会長ハ原告ニハアラデ後任会長大木清太郎ナリ。

(4) 綿糸ノ内五百貫ヲ同漁業会員ニ配給セシハ原告ナラサル其当時ノ同漁業会長大木清太郎ナリ。

(5) 加之其余ノ右亜麻モ亦右大木会長カ同漁業会ノ他ノ会員タル訴外藤井清四郎ニ全部之ヲ配給セルモノナリ。

(註) 右配給ハ右藤井カ農林省ノ全国特配中ヨリ配給ヲ受ケシモノナレドモ、其ノ所属漁業会ヨリノ申請アルコトヲ必要トスル為、該事件ノ被告主張ノ如ク同漁業会ヲ代表スル会長名儀ニテ申請シ、同漁業会宛、但シ藤井ヘノ特配分ト特ニ指定シテ配給セラレタルモノナリ。サレバ右ハ全部藤井ヘ交付セサルベカラサルモノニシテ、其一部綿糸五百貫ヲ藤井外ノ会員ニ配給セシハ藤井ノ厚意ニヨリ之ヲ同人ヨリ割愛セシモノニ過キス。

四、故ニ右事件ニ於テノ争点ハ、綿糸千貫ト亜麻全部トヲ、原告カ如何ニシタルカニアリ。

一定ノ権利関係ノ発生原因ニハ法律行為アリ又法律事実アルモ、共ニ必ス具体的事実ナルコトヲ要スル、今本件ニ於テ是ヲ観ルニ、一定金額ノ増加所得税金ノ徴収ト納付ト。換言セバ被徴税個人ノ一定額ノ金員所有権ヲ税トシテ国庫(法人)ニ移転スヘキ国庫ノ請求権ト個人ノ支払義務トノ権利義務関係ノ発生原因事実ハ(事業所得ニノミ課セラルル増加所得税ナルヲ以テ)被課税個人ノ事業ノ内容ト利得ノ発生原因事実ト、其結果トノ具体的事実、即チ是レナリ。詳言セバ

(1) 右綿糸(ト以下略称セン)カ、右漁業会ニ現実ニ交付セラレタルハ、原告ガ会長退職後ノコトナルヲ以テ、原告ハ該綿糸ヲ如何様ニシテ漁業会ヨリ取得シタルカ。窃取セシカ。強取セシカ。又漁業会ハ法人ナルニヨリ、該綿糸ヲ原告ニ取得セシメシ衝ニ当レル自然人ハ誰ナルカ。此誰カ原告ニ如何様ニ取得セシメシカ。贈与カ、売渡カ、或ハ共同シテ何等正権原、正原因ナクシテ移動セシメシカ。(刑法上ノ横領行為)

(2) 又、原告カ之ヲ他ニ「横流」シ売却セリトハ抑々誰ニ、代金幾何ニテ為セシカ。等具体的ノ主張ヲ要ス。

(3) 或ハ曰ハン「右ハ所謂闇行為犯罪行為アリ」ト主張シ、認定スルヲ何条以テ許シ得ルモノゾ。

五、具体的事実ノ主張ナキ以上其存否ヲ審理センニモ対象ナキモノナルヲ以テ、審理ノ第一歩タル相手方ノ認否ノ答弁スラ之ヲ述ムルコトヲ得ズ、素ヨリ証拠調ニ入ルヲ許サズ。蓋シ争アル具体的ノ点ヲ明示セス、争ナクンバ証拠調ヲ許シ得サレハナリ。

六、然ルニ被告ハ右事実立証ノ為証人トシテ被告人安藤ヲ申請シ、同人ハ被告代表者本件被上告人望月ノ問ニ応シテ、甲第一、二号証、該事件ノ口頭弁論調書記載ノ供述ヲ為シタリ。其ノ要旨ヲ摘示セハ

昭和二十四年十月十八日ノ供述

(1) 原告(本件上告人以下同シ)ハ、漁業用資材トシテ正規ニヨリ、リンク物資ノ配給ヲ受ケタモノ、正規ニ受ケタモノデナイモノノ綿糸ソノ他ノ物資ヲ横流シシタ。

(2) 原告ハソノ権力ニヨリ、米、油、等ヲ終戦ノ混乱ニマギレテ持チ運ンダ。非農家ノ原告ガ何俵カノ米ヲ供出シタ。

(3) 漁業者デナイ原告カ綿糸ノ配給ヲ受ケタ。該物品ヲ転売スルコトハ想像サレル。

(4) 共栄漁業組合トイウ幽霊組合ガアリ、コレカラ原告ガ相当多量ノ物資ヲ手ニ入レタ。

(5) 原告ノヤツテイタ頃ノ向ケ崎漁業会ノ配給帳簿ト県水(神奈川県水産業会)トノ帳簿ガ符合シナイ。

昭和二十四年十一月十七日供述

(1) 共栄漁業組合カ県水カラ配給サレタ綿糸ノ一部ヲ地元民ニ配給シタトイウ話ハ聞イテイルガ、払下価格ヨリ配給価格ノ方ガ高イ。

(2) ソノ他ニオイテモ原告自身デ配給ヲ受ケタ。

(3) 組合ノ配給帳簿記載数量ト実際ノ配給数量ガ符合シナイ。

(4) 綿糸二千百貫ガ業者(出荷者)全員ニ渡ツテイナイ。

ソノ供述ノウチ伝聞証言ニツイテハ、ソノ伝聞先ヲ明カニシナカツタコト、ハイヅレモ当事者ノ間ニ争ガナイ。

第二、本件上告人ノ主張ノ要旨

一、被上告人望月ノ問ト、証人安藤ノ供述トハ共ニ

(1) 全然具体性ヲ有セス。

(2) 審理ノ対象外ニ属ス。

(3) 伝聞証言ニ終始セルニ其供述者ヲ明示セス。

(4) 右(1)乃至(3)ハ証言タル価値ヲ有セス、唯名ヲ証言ニ籍リテ証言ナラサル供述ヲ望月ハ為サシメ、安藤ハ為シタルモノ。

(5) 該供述カ上告人ノ名誉ヲ毀損スルモノニシテ。

(6) 此ハ之ヲ為サシメ、又為ス権利モ義務モ共ニ是レ無キノミナラス。

(7) 却ツテ之ヲ為シ得サル一般社会人トシテノ義務アリテ該義務ニ違反セル不法行為ナリト謂フニアリ。

(註) 甲第一、二号証ノ口頭弁論調書ニハ現実供述ノ一部ヲ録取セラレアルニ過キス、右証拠調ニ立会ヒタル本代理人ハ素ヨリ次順番ヲ法廷ニテ待タレタル他ノ事件ノ訴訟代理人諸弁護士モ皆悪罵ノ意外ニ驚キタル程、聴クニ堪ヘサルモノナリキ、斯ノ如キカ神聖ナル法廷ニ於テ、公然正当権利トシテ公行セラルトセハ世ハ実力行使ノ横行、秩序、破壊ニ堕スルノ外ナカルヘシ

第三、原判決ノ理由

原審東京高等裁判所ノ判決理由ハ、

一、主張事実具体性ヲ完備セストモ証拠調ニ入ルヲ得。

(1) 事実主張者ニハ該主張事実ヲ具体的ニ主張セシメ、然ル後ニ相手方ノ認否ヲ求メ、争点ヲ具体的ニ確定シタル上ニテ立証ニ入ルヲ適当ノ措置ト謂ヒ得ルモ、

(2) 別件訴訟ハ控訴人(上告人)ノ昭和二十一年中ニ於ケル当該課税ノ対象トナル所得全部カ審理ノ対象トナルカ故ニ、

(3) 昭和二十一年中ニ前記漁業会ニ配給セラレタル綿糸等ヲ横流シセリト謂フ程度ニテ直ニ証拠調ニ這入ルモ、

(4) 此ハ裁判所カ該主張事実ヲ尚ホ具体的ニ主張セシムルノ釈明権ヲ行使スルカ否カノ訴訟指揮権ノ範囲ニ属シ、

(5) 該主張カ抽象的ニテ漠然トセハ、該主張事実ノ真否ニ付テノ判断ヲ受クルニ付キ信憑性ノ薄弱ナリト謂フノミナリ。

二、審判ノ対象ハ「横流シ」事実ノミナラス。

(1) 審判ノ対象ハ被控訴人(被上告人)主張ノ綿糸等ノ横流シ事実ノミナラズ、控訴人ノ其他ノ所得事業活動、生活状況、其ノ他所得ヲ生スヘキ原因事実モ広ク審判ノ対象トナリ得ルモナルカ故ニ、

(2) 主張ノ範囲モ右主張事実タル横流シ事実ノミニ限定セラルルコトナシ。

三、本件証言ハ争点ニ関連性アリ、且伝聞先ノ明示ヲ要セズ。

(1) 斯クシテ本件安藤ノ証言ヲ観ルトキハ、其ノ尋問並ニ証言ハ、別件訴訟ノ争点並ニ立証事項ト関連性ヲ有ス。

(2) 伝聞先ヲ明ニセサル証言ト雖モ、自由心証ニヨリ、其ノ証拠力ヲ決スヘキナリ。

ト謂フニ帰着スルモノノ如シ。

第四、大判並学説

一、右判決ヲ検討スルニ先チ、大判ト学説トヲ挙示セン。

二、証言トハ、

(1) 証人ノ過去ノ見聞事実而モ具体的史実ナラサルヘカラス。素ヨリ当該係争主張事実其モノ、例ヘハ主張事実カ「売買」ナル場合、直接該売買行為ニ干与セル見聞ナラストモ、当該日時場所ニ居合セリトノ如キ事実ニテモ妨ナシト雖モ、之ニ無関係事実ハ該主張事実ノ証スヘキ証言タル性質ヲ外レタルモノト謂ハサルヘカラス。

如何ニ他人ノ悪事ナリトモ、其レカ当該係争事実ニ関スルモノナランニハ、真実発見以テ社会ノ秩序維持ニ資シ得ルモノナル限リ、証人タルモノハ之ヲ供述セルヘカラサル義務ヲ負荷セシメラレタルモノナルカ故ニ、該悪事ノ供述モ違法性ヲ阻却セラルルモノナレトモ、此範疇外ニ属スル以上、毫モ違法性ヲ失フセノニアラス。是レ全ク、名ヲ証言ニ藉リ、以テ他人ノ名誉、信用ヲ毀損スルモノト謂ハスシテ何ンゾヤ。

(2) 例ヲ犯罪ニ採ランカ、「被告人カ甲者ヨリ時計ヲ窃取セリ」トノ事実認定ノ資料タル証拠トシテ「同被告人ハ他ニモ金銭ヲAヨリ窃取セリ」トノ証言カ本件甲ノ時計窃取事実認定ノ証言タル価値ヲ有スルカ。

又「被告人ハ乙者ノ時計ヲ窃取セリ」トノ証言カ、「甲者ノ時計窃取事実」認定ノ証言トナリ得ルカ。全然別事実ナルヲ以テ、此両者共ニ真実ト認定セラレナバ、両個ノ犯罪ニ付キ其ノ責ヲ負フヘキモノ、ナルカ故ニ「乙者ノ時計窃取」ノ証拠アラバ、該事実ニ付キ責ヲ負フモ、為ニ「甲者ノ時計窃取ノ事実」ニ付テハ何等ノ責ヲ負フヘキニハ非ルヘシ。

(3) 伝聞事実素ヨリ証拠タリ。但シ係争事実ニ関スレハ可ナリ。関セズンバ不可ナリ。(次ノ(5)参照)

(4) 間接事実亦然リ、但シ是モ亦係争事実ニ関スルモノナラサルベカラス。(次ノ(5)参照)

(5) 抽象的事実ハ証拠トナルコト能ハス。

(イ) 風聞、素行、前科等ハ原則トシテ証拠トナラサルモ、例外トシテ証拠トナルコトアリ、此ハ係争事実ノ構成要素ヲ為ス場合、即チ之レナリ、例ヘハ、民法ノ強迫ニヨル法律行為、脅迫ニヨル不法行為、又刑法ノ恐喝、脅迫、強盗、強姦等ニアリテ、犯人ノ予テノ素行、風評、前科、其モノガ相手方ヲ畏怖スルニ足ル力ヲ有シ、犯人ガ之ヲ利用スルニ於テハ、係争事実ヲ構成スルモノナルヲ以テ、証拠トナルコト勿論ナリ。

反之、風聞等ノ如キハ係争事実ヲ構成セサルヲ常トス。係争事実ニ関係ナクンバ到底証拠トナルコトナシ。

(註一) 大判「民訴(旧)二八九条ニ所謂証言トハ、自己ノ見聞ニヨリ、係争事実ニ付知得シタルコトヲ裁判所ニ於テ供述スル義ナリトス。而シテ証人自ラ係争事実ニ直接関与セルニヨリ之ヲ知得シタルト、将タ当事者、若ハ他人ヨリ聴取シタルニヨリ之ヲ知得シタルトヲ問フ所ニアラス。」ト謂ヘリ(明治四十年四月二十九日言渡民事聯合部判決、民録一三輯四五八頁)。

此ハ従前「伝聞事実ハ証拠トナラス」トノ判例ヲ変更シタルモノナレトモ、同時ニ証言ノ如何ナルモノナルカヲ説明セシ判決ニシテ係争事実ニ付キ知得シタルコト、其レカ直接関与ニヨルト他人ヨリ聴取シタルトヲ問ハストナセトモ、右孰レニスルモ等シク「係争事実ニ付キ知得セルモノ」ナルコトヲ要スル趣旨ヲ明ニセルノ看ルヘキモノナリ。

(註二) 林氏ハ「風聞又ハ単純ナル想像ノ如キハ其本質上確実性ヲ欠キ、事実認識ノ資料タル適性ヲ有セサルヲ以テ、之ヲ証言ノ内容ト為スト、文書ノ内容ト為ストヲ問ハス証拠能力ヲ認ムヘカラサルモノトス。」(刑訴法論四〇九頁(5)四三〇頁(2))

(註三) 大判ハ風聞ノ証拠力ナキ理由ヲ「責任ノ帰スルトコロナキカ故ナリ」ト左ノ如ク説明セリ。

刑訴(旧)九〇条ニ所謂諸般ノ懲憑ニハ何等ノ制限アルコトナク、総テ判事ノ自由ナル判断ニ任スヘキモノノ如キ観アレトモ、空漠タル、風聞ヲ記載セル文書ノ如キハ到底依ツテ罪責ノ有無ノ軽重ヲ判定スル資料タルコトヲ許スヘキモノニアラス。

蓋シ自ラ「具体的事実」ヲ直接ニ見聞シタリ、若シクハ一定ノ人ヨリ之ヲ伝聞シタリトノ記載アル一定ノ人ノ作成セル文書或ハ録取者ノ何人タルヲ問ハス、叙上ノ趣旨ノ陳述ヲ録取シタル文書ノ如キハ、其ノ作成若クハ録取ニ伴フ直接若クハ間接ニ作成者録取者ノ負ヘル責任ノ存スルアリテ、即チ原則トシテ何人タルヲ問ハス、裁判所ノ呼出ニ応シ、出頭シテ証言スル義務アルカ故ニ、裁判所ニ於テ、若シ必要ヲ認ムルトキハ、其文書ニ関シ、直接ニ之カ作成録取書ノ陳述ヲ聴キ取リ、依テ以テ其信スベキヤ否ヤヲ判断スルヲ得ヘキヲ以テ、之等ノ文書自体モ亦、懲憑ノ一トシテ判事ノ判断ニ任スルヲ得ヘシト雖モ、風評ノ如キハ之ヲ供述シ若クハ之ヲ記載スル者ノ誰タルヲ問ハズ、結局責任ノ帰スヘキ所ナク、裁判所ニ於テ、就テ其真否ヲ説明シテ信憑力ノ有無ヲ判断スルヲ得サルハ勿論ナルニ因リ、其被告ニ利益ナルト之ニ反スルトニ論ナク、之ヲ断罪ノ資料トナスハ頗ル危険ニシテ、判事ノ自由判断ノ範囲ハ属スト謂フヘキニ非レハナリ。」ト(大正三年五月十五日判決刑録二〇輯八九九頁)同趣旨(同年九月十六日判決、同輯一五九頁)

(註四) (註一)ノ判例前ノ判例ハ「伝聞証拠ハ証拠トナラス」トセシモ、其趣旨ハ(註三)ノ判旨ノ如ク「責任ノ帰趨ナキ危険ナルモノナルカ」故ナリシナリ。

今日ト雖モ此責任ノ帰趨ナキ限度ニ於テハ依然証拠力ナキモノナルコト、叙上ノ判例ヲ綜合セハ明ナルヘシ。素ヨリ当然ナリ。

(ロ) 右(註三)ノ判決ニ於テモ「具体的事実」ナルコト及ビ「伝聞者ニ該事実ヲ供述セル者ノ明ナル場合」ニ非スンバ証拠トナラサル趣旨ヲ明示セリ。

(ハ) 証拠ハ具体的事実ナラサルヘカラサルコト右ニ述ヘタルガ、

細野氏ハ裁決セラルル具体的法律関係ヲ構成スル事実ガ証明セラルヘキ事項ニシテ民訴ハ証拠ニ関シ原則トシテ具体的事実ノミニ関シテ規定シ、他ノ事項即チ、

(a) 右具体的事実ヲ定ムル大前提タル事実、即チ

一定ノ原理並ニ一般ノ経験則ニシテ、之ニヨリ具体的事実ヲ確定スルモノ

(b) 右一般ノ法則タル大前提ヨリ具体的事実ニ対スル結論

ノ両者ニ付テハ鑑定証拠ヲ規定スルノミト(同氏要義第三巻三二三頁以下)

又民訴ノ目的物タルモノハ、単純ナル事実タルモノト解シタリ。即チ具体的法律関係ノ発生、変更、消滅ニ関スル過去ノ事実是レナリ、(同上三二六頁)

又証人トハ具体的事実ニ付観察ノ結果ヲ報告スルモノヲ謂フ(同上三九〇頁)

三、証言、義務、其範囲

(1) 伝聞セルコトヲ「聞カズ」ト答ヘ得サルニ非スヤ。

誠ニ然リ。然レドモ該伝聞事実(素ヨリ具体的事実ナラサルヘカラサルコト前叙ノ如シ)カ証拠タル場合ニシテ甫メテ然ルナリ。当該係争具体的事実ニ何等ノ関係ナキ、而モ抽象的事実カ、当該係争事実ヲ証明シ得ルカアリト、抑々何人カ考ヘ得ルモノゾ、従ツテ之ヲ問フコトモ許スヘカラス、又答フルノ要ナキモノナリ。極端ナル例ナレトモ係争事実カ或土地ノ売買ニシテ之カ証人トシテ該売買事実ニモ又、該当事者ニモ全然無関係ナル「証人ノ収入」ヲ問フカ如シ。(後記本項(4)参照)

(2) 敢テ伝聞事実ノミナラス、直接見聞ノ具体的事実カ当該係争事実ニ関スルモノナル以上ハ、該事実カ例令他人ノ名誉ニ関スルモノナリトモ(刑事々件ノ証人ハ殆ンド然リ)此ハ真実発見、以テ社会ノ秩序維持ニ資セサルヘカラサルモノナルヲ以テ証人タルモノハ之ヲ供述セサルヘカラサル義務アルコト勿論ナリ。故ニ他人ノ悪事ノ供述カ、他人ノ名誉ヲ毀損スルトモ、該供述ハ違法性ヲ阻却セラルモノナルコト上ニ述ヘタリ。

(3) 然レドモ此範囲外ノモノハ毫モ違法性ヲ除却スルニアラス。蓋シ証人ノ供述セサルヘカラサルテフ証言ナルモノハ当該係争事実ニ関スルモノ、具体的事実ニ関スルモノニ限ラルルカ故ナリ。此ハ理論上然ルノミナラス、旧刑訴三四〇条第二項ノ明文ノアルアリ。同条第一項ハ証拠書類ヲ証拠ニ採用センニハ之ヲ朗読シテ、被告人ニ之ヲ示シ、其意見、弁解又ハ反証ヲ尽シ得ル機会ヲ与フヘキ趣旨ナリ。現行刑訴モ毫モ異ルトコロナシ。

然ルニ拘ラス同条第二項ノ文書ハ其レカ例令証拠タル場合ナリトモ、苟モ人ノ名誉ヲ毀損スル虞アルモノハ、之ヲ朗読スルコトヲ禁セルモノナリ。

風説又ハ素行モ当該係争具体的事実ヲ構成スル場合アルコト前叙ノ如シ。此場合事実ノ記載文書ハ証拠力アリト雖モ、尚ホ「虞アル」ノミニテ之ヲ公開ノ公判廷ニテ朗読スルコトヲ禁止セルノ注目スヘキモノナラスヤ。此ハ敢テ規定ヲ俟ツ迄モナク旧々刑訴時代ヨリ実際ニハ其通リ行ハレ来レルモノヲ、単ニ明文化セシニ過キサルモノナリ(法律新聞社編刑訴精義九二四頁)。況ンヤ証言ノ範囲外ノモノニ於テオヤ。

(4) 証人尋問ハ係争事実ノ証明ニ資シ得ルヤ、否ヤノ判断ヲ怠ルコトナク実施スヘキモノニシテ、一旦此範疇外ニ亘ランカ、裁判長ハ即時之ヲ制限スヘキモノニシテ、証人カ其問ニ応ゼズンバ問者ノ恥辱ト謂ハサルヘカラス。(刑訴二九五条参照)

第五、原判決ハ右判例ニ反ス

一、当事者ノ主張事実、素ヨリ審理ノ対象タルヘキ事実ニシテ、具体性ヲ完備セサル場合、之ヲ具体的ニ主張セシムルコトハ裁判所ノ釈明権ノ行使タル訴訟指揮権ノ範囲ニ属スト。素ヨリ然リ。然レトモ主張スルト否トハ当事者ノ自由ニシテ、裁判所ニテ之ヲ強制シ得ルニアラズ。釈明権ノ行使トハ、当事者カ主張スヘキモノヲ明確ニ、具体的ニ主張セサルカ為ニ該当事者ノ蒙ルブキ不利益ヨリ救済センカ為ノ注意ノ喚起ニ外ナラス。釈明ヲ求ムレトモ之ニ応セスンハ如何セン。裁判所ニ尽スヘキ審理ヲ尽セリテフ、責ヲ免ルルニ外ナラス。故ニ釈明権カ訴訟指揮権ノ範囲ナリトノ理由ニテ当事者ノ主張カ具体性ヲ完備セスシテ可ナリト謂フコトヲ得ス。

二、主張事実ガ抽象的ニシテ漠然トセハ、該事実ノ真否(存否)ノ判断ヲ受クルニ付キ信憑力薄弱ナリトハ抑々何ノ意カ、信憑力ノ厚薄トハ証拠力ノ価値ノ程度ナリ。証拠トハ主張事実ノ存否ノ認定ノ資料ナリ。此資料ノ価値ニヨリ存否認定ノ対象トナルモノハ即チ主張事実ナラスヤ。此ノ主張事実カ具体性ヲ完備セス、抽象的ナル以上信憑力ノ厚薄等トハ大凡筋違ヒナラスヤ。

三、別件訴訟ノ審理ノ対象ハ増加所得タル以上(増加所得税トハ事業所得ノミニ課スルモノナリ)同年中ノ全事業所得ニ及フヘキコトハ上告人モ当初ヨリ之ヲ主張セルトコロナリ。

審理ノ対象トナル故ニテ、主張セズシテ可ナリト謂フヘキ根拠イヅクニアリヤ。綿糸等ノ横流シ事実ノミナラス。上告人ノ同年中ノ其他ノ所得(事業所得ノミナリ)モ審理ノ対象トハナルモ、先ツ該事実ヲ具体的ニ主張シ、従ツテ其発生事実モ具体的ニ主張セサルヘカラス。

四、課税原因

(1) 課税原因トハ何ソヤ。所得税ハ所得金額ニ課スルモノ、即チ「所得金額幾何」ト称スト雖モ、是ノミニテハ該金額ヲ説明スルニ是ハ所得ナリト請フニ外ナラス。「金何円ナリ是ハ貸金ナリ」ト謂フニ異ラス。如何ナヲ貸借ヲ原因トシテ発生セル貸金ナリヤヲ明ニスルコトニヨリ甫メテ該貸金債権ナルモノカ特定スルモノナラスヤ。

「金何円ナリ、是ハ何年中ノ所得ナリ」ト謂フノミニテハ該所得カ如何ンソ以テ特定スヘケンヤ。其原因タル事実曰ク給与、譲渡、貸地、貸金、勤労、事業等ノ各種目ニ該当セスンバアルヘカラス。該各種目ヲ掲ケルノミニテモ尚ホ抽象的ニシテ特定スルモノニアラス。斯斯ノ事業行為ハ斯々ノ利得アリト謂フコトニヨリ甫メテ該所得ヲ認識シ得ルニ非スヤ。

(2) 「所得ノ全部」ハ「個々ノ利得ノ集積、計算ノ結果」ニ外ナラス。即チ個々ノ所得ニ課税スルニ非スシテ何ニ課税スルト謂フカ。税法ハ云々ノ所得アル個人ハ之ニ対スル本法ニ定ムル率ニヨリ算定シタル金額ヲ税トシテ納ムヘキ趣旨ヲ明カニセルニ非スヤ。

(3) A事実(例ヘハ綿糸ノ横流シ)ノ外他ニB事実(例ヘハ漁業)ナル所得原因アラハ之ニモ当然課税セラルヘキモノナルヲ以テ、仮令一旦ノ課税決定後ニ之ヲ発見セラルルトモ尚ホ之ヲ主張シテ課税セラルヘキモノナリ(時効完成前ナラバ)即チ、A、B両原因事実ニヨル両所得ニ課税セラルヘキモノナルコトモ別件ニテ原告ノ主張スルトコロナリ。故ニA所得モB所得モ共ニ百万円ト仮定セハ、合計二百万円ニ課税セラルヘキモノニシテ、課税決定ニハA事実ノミヲ原因トセラレ、而シテ該事実ハ皆無ナルコト明トナリ、併シ別ニB事実ノ発見セラレ、此ハ原決定ニ遺脱セル場合、本来ナラハ、曩ノ百万円ノ決定ハ一旦之ヲ取消シ、更ニ新ニ百万円ノ決定ヲ為スヘキモノナレトモ、此ハ其税金算出ノ結果ニ毫モ差異ナキノ故ニ、従前ノ決定ノ儘ニテ維持スルノミ、蓋シ納税人ニ取リ不利益ノ結果ヲ来ササルカ故ナレハナリ、決シテ彼此交流、融通スルモノニハアラス。

故ニ該事実ノ先ツ具体的主張ト、其根拠タル具体的事実ヲ発見セラレサルヘカラス。其為ニ原告ノ他ノ事業活動等ヲ調査認識セラルルハ、右発見ノ一手段タリ得ル外ノ何物ニモ非ルヲ以テ、調査ハ御勝手ナレトモ、具体的ナル所得原因事実ノ挙示ナクシテ、何ンソ以テ課税ノ根拠アリト謂ヒ得ンヤ。

(4) 唯実際ノ徴税技術トシテハ納税者側ニ存スヘキ所得ノ証拠物件ナキトキハ、徴税官憲側ニテ、諸般ノ状況ニヨリ所得ノ一定額ヲ推定シテ以テ納税者ニ臨ミ、納税者カ之ニ反抗セスンハ之ヲ承認セルモノト做スノ方途モ考ヘ得ラレサルニ非ス。昭和二十五年法律第七一号第四六条ノ二第三項ノ如キハ、正ニ此方法ヲ訓示セルニ外ナラス。一朝納税者側ニテ之ヲ承服セス、審査ヲ請求スル以上、厳密ナル具体的所得原因ヲ挙示セサルヘカラス。右法条ハ「事理当然」ノコトニ属セス、却ツテ反対ニシテ単ニ訓示ノミ。

殊ニ本件ノ如ク、原告ハ何等販売業者ニ非ス。何ソ以テ帳簿ノ備ヘ付ケノアルヘキ。該事実ニハ全然無関係ナル原告ニ、突如寝耳ニ水ノ課税通知ナリ。此原告ニ帳簿ナキノ故ニテ、被告主張ノ綿糸ニ関係ナキ、他ノ而モ抽象的事実ニヨリ、其レトハ全然別離ノ綿糸横流シノ所得原因事実アリト押シ付ケ得ヘキ理由、抑々イズクニアリヤ。

五、又原判決ハ控訴人ノ事業活動、生活状況等モ広ク審判ノ対象トナル旨説明セリ(前記第三ノ二ノ(1))

決シテ然ラズ。

(1) 例ヘバ上告人ハ財産税ヲ賦課セラルヘキ資産無カリシモノカ、其後該限度ヲ超過スル資産ヲ有スルニ至レル以上、此部分ハ所得ナラズヤト、該事件ノ被告代表者望月ハ主張シ、以ツテ該事実ノ証拠ヲ出サント証人ヲ誘導セリ。

財産税賦課限度以下ノ資産ナリシモノカ、其ノ後限度ヲ超過スル資産ヲ有スルニ至レリト仮定スルモ、為ニ本件ノ増加所得税、即チ藤井ヘノ特配綿糸転売ニヨル利益ヲ得タルモノトノ認定ハ愚カ、其ノ推定、否、嫌疑スラ之ヲ為シ得ルモノニアラズ、蓋シ原告ハ船ヲ(本件課税当時モ船ハ三隻之ヲ有シタルヲ売却シテ)新ニ購入シタルモノナルカ、該換価金ノミナラス、新購入資金ヲ他ヨリ借用セルアラハ如何セン。原告ハ正ニ之ヲ銀行ヨリ借用セルモノナリ。

又財産税ノ非課税所有動産ヲ換価セハ如何。又富クジニ当タレル収入ハ非課税所得ナラスヤ。

(2) 又上告人ノ昭和二十一年中ノ所得ハ、

(イ) 芙蓉水産株式会社重役報酬金六千六百五十円。

(ロ) 船舶一隻売買仲介謝礼金一万五千円。

(ハ) 神奈川県議会議員報酬千五百円。

計二万三千百五十円ナリ。(右事件ノ原告第三準備書面第二ノ二(二枚ノ表))

加之原告ノ養子実弟正治ト原告ノ妻みよトハ共ニ各別ニ所得税ヲ納付セル所得ヲ挙ケ居レリ。

(3) 左レハ、納税者ノ事業活動、生活状況等ニヨリ所得アリト認定スルコトヲ得ズ。

六、原判決ノ謂フ主張ノ範囲モ右主張事実タル横流シ事実ノミニ限定セラルルコトナキハ其ノ通リナレトモ、為ニ其ノ主張ヲ為ササルコトノ許サレサルハ勿論、其ノ主張ト雖モ、具体的ナラスシテ可ナリト謂フコトヲ得ス。

七、原判決中ノ最モ非トスルハ「安藤ノ証言ヲ観ルトキハ其尋問並ニ証言ハ別件訴訟ノ争点並ニ立証事項ト関連性ヲ有ス」ト一行余ノ説明ニテ本件ノ要点ヲ片附ケタル点ナリ。

(1) 安藤ノ供述ガ具体性ヲ有セサルコトニ付イテハ一言半句ノ説明ヲ為サズ、具体性ヲ全然欠除セル右供述ヲ果シテ証言ト謂ヒ得ルカ決シテ然ラズ、大判ニ全然正反対ナリ。

(2) 安藤ノ供述内容ハ別件ノ審理ノ内容ノイヅクト関連性ヲ有スルカ。全然別異ニ属シ「係争事実ニ付キ知得セルモノ」ナル大判ニ全然正反対ナリ。

(3) 伝聞供述ニ終始セルニ其供述者ヲ明示セス、然ルニ、之ヲ裁判所ノ自由心証ニヨリ決スヘシト做スモ亦大判ニ全然正反対ナリ。

被上告人ハ伝聞先ヲ明ニセハ、課税ノ資料ヲ得ル能ハサル故ニ、之ヲ明ラカニセサルハ正当ノ理由アリト。決シテ然ラズ、自己ヲ表示セズシテ為ス陰武者ホト卑怯ナルハナク、此ノ場合ニコソ虚偽ノ流布サレルヲ常トス。本件亦実ニ然リ、課税通知ヲ受ケタル上告人カ先ツ馳セツケタルハ被上告人安藤ノ許ナリ。安藤ハ唯「綿糸ニテ御儲ケノ由デハアリマセンカ」ト、上告人「綿糸ガ如何シタ」安藤「嘘デスカ。デハ三崎デハ変ナ人ヲ代表者ニ出シタモノデスネ」上告人「ハー久野ノ嘘ツキカ」(久野ハ神奈川県会議員ナリ)安藤「名ハ申セマセヌガ。デハ調査シマセウ」トノ回答ヲ交シタリ。

(註) 久野カ綿糸事件ニテ起訴セラレタルコト公知ニ属シ、別件課税取消事件ニテモ同件ノ被告ハ久野ノ刑事被告事件ノ記録ノ取写ヲ申請セリ。

同人ノ他面税法上該入手綿糸ニヨル自己ノ利得ヲ減セント努力セル事実アルモ此ノ上告審ニテ審理ノ対象トナラサルニヨリ多ク記載セズ。

八、斯クシテ人ノ名誉信用カ公然毀損セラルルコトヲ甘受セシメサルヘカラサル利益イツクニアルカ。第一審判決カ、被告ノ主張ハ全部網羅シテ之ヲ誰明シナカラ、之ニ対スル原告上告人ノ主張ハ毫モ之ヲ摘示セズ素ヨリ判断セスシテ原告ノ請求ヲ棄却セラレ、次テ第二審判決カ本件ノ最肝要点タル証言ノ具体性ト係争事実トノ関連性トノ二点ノ説明ヲ単ニ一行余ニテ何等ノ説明ヲ加ヘス問題ニ答フルニ問題ヲ以ツテセルヲ見、裁判所ノ判事モ、国家ノ使用人ニシテ国家ヲ負カスコトハ絶対ニ之ヲ避ケ、是ガ非デモ原告ヲ敗訴セシムト先ヅ結論ヲ出シ置キ、只之ニ理由ナラサル理由ヲ附シ、尤モラシク附ケ加フルニ努力セル跡歴々タリト恨メルハ、上告人カ素人タルノ僻目ナルカ。

九、貴庁判官諸公何卒篤ト慎重御審理ヲ賜ランコトヲ切願ス。若シ(一)証言ハ具体性ヲ要セストカ。(二)本件証言ハ具体性アリトカ。(三)本件係争事実ニ関連セリトカ(如何ナル点ニ如何ニ関連スルカ)。(四)伝聞証言ノ伝聞先ノ明示ヲ要セストカ、トノ御判定ナランニハソノ以所ヲ詳細御判示賜リ、上告人ヲシテ納得セシメラレ以テ裁判権ノ威信ヲ発揮シ給ハランコトヲ希フ。(以上)

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